小説『遥かなる空への想い』
- 第1章 空の世界への旅立ち -
「おい、この書類さっさと片付けておけよ。」
「はい!」
「そうだ、これもやっておいてくれ。迅速かつ正確にな。」
「はい!」
あーあ、まったくかったるいなぁ・・・。
「ん? 今なんか言ったか?」
「い、いえ、何でもありません!」
「そうか。・・じゃあ、がんばってくれよ。」
「はーい。」
「なんだ、その間の抜けたような返事は?」
「は、はい!!」
「うん、よろしい。」
ふぅ、なんとかその場はごまかせたな。
まったく、ここの上司はすぐ俺たち部下に雑用を押し付けやがって・・・。
ちょっとは現場で汗水流して働いている人間の身にもなってみやがれ、ってんだ、チクショー!
それにしても、今日このごろ仕事が忙しく、連日のように残業が続いている。
いくら時期が時期だとはいえ、働きすぎじゃないのかとさえ思える。
俺をこき使ってるこの上司、そしてこの会社はいったい何を考えているんだ?
奴隷のような気分だぜ、まったく!
・・・もっとも、仕事が忙しいということは、
それだけ会社が儲かっているということであり、結果的にはいいことなのだが・・・。
働き続けることしばし、時計の針は午後9時を指していた。
「よーし、今日はここまでだ。みんな、お疲れさん。」
上司のこの号令とともに、俺たち部下は1日の仕事を終え、それぞれの岐路に着く。
自宅に帰る道すがら、俺はふと立ち止まり、夜空を見上げた。
頭上に広がる夜空は、しかし本来の輝きを失っていた。
朝から天気が悪く、かねてから厚い雲に覆われているうえに、
四方に囲まれたビル群によってその視界を狭められ、
さらに放出する無駄に明るい光によって、無駄に明るく照らされていた。
こんな明るい空・・・、本来の夜空とは決して言い切れない・・・。
俺は、都会のマンションにひとり暮らす平凡なサラリーマン。
独身で、プライベートでは誰から拘束されることもなければ、
逆に誰から面倒を見てもらえるわけでもない。
じつにアーバンで、そしてドライな生活である。
限りない自由があるかわりに、常に何かたりないものを感じる・・・。
ある意味、とても寂しい人生を、俺は送っているのだろうか。
シャワーを浴び、身支度もそこそこに、俺は一杯のチューハイを飲む。
寝る前に飲めば、なんかいい夢が見られそうな気がする・・・
そう信じて、俺は二十歳になってからずっとその習慣を続けているのだ。
それに、酒は百薬の長とも言うしな。
「さーって、そろそろ寝るか!」
酒もようやく胃に収まり、また連日の仕事の疲れもあいまって急速に睡魔が襲ってくる。
俺は、自分の部屋にあるいつものベッドに寝転がり、身を横たえる。
明かりも消し、すみやかに寝る準備に入る。
人間は、疲れると自然とこういう行動に移るものだから不思議だ。
なんといっても、食欲・性欲につづく3大本能のうちのひとつだからな。
かくして、俺は深い眠りについた・・・。
現実ではぐっすり眠っているであろう俺だったが、
意識の中は、さしてそうでもなかった。
眠りについた後、しばらくは真っ暗な闇が続いていたが、
ある時、ふと目の前に緑の草原が見えた。
果てしない・・・それも、360度どこを見ても一様に真っ平な地平線が続いている・・・
動物や、ましてや木1本さえ存在しない荒涼とした・・・
・・いや、むしろ一面の草に覆われた新鮮で神秘的な緑の空間が、そこには広がっていた。
自分は今、どこにいるのだろうか・・・
そう気がついた瞬間、俺の体は無意識のうちにフワリと浮きあがり、
足元から緑の草むらが離れていく。
高く・・、どこまでも高く浮き上がっていく・・・
空に近づき、空の天井にぶつかるのではないか・・・
・・そう思ったとき、俺はすでに自由に大空を舞う、1羽の鳥になっていた。
俺は、これから何者にも束縛されない。
自由な鳥となって、これから遥かなる空を旅するのだ!
そして、みずからも空となるのだ・・・!
どこまでも広がる無限の空間・「空」・・・
大自然が織りなす、刺激に満ちた大空の数々。
それらを巡る旅が、今始まる・・・・・。
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