小説『遥かなる空への想い』
- 第2章 青空に刷毛をひくすじ雲 -
今は昼間。晴れ。
水平線の彼方まで、どこまでも透き通るような青空が広がっている。
空気は穏やかで、とても澄み渡っている。
あたかも産まれたての赤ちゃんのように、それはあまりにも純粋であり、
侵すことのできないものであった。
上空の遥か高みに吹く強い風・・・
その風は、冷たいけれど気持ちいい。
その冷たく強い風に抱かれ、俺はただ空を飛んでいた。
暖かい太陽の光が、それよりもずっと高いところから俺を包み込んでくれる。
それはまるで何か目には見えない力によって守られているかのようだった。
とても気持ちよくて、こちらが先に眠くなってしまう・・・。
太陽はなおも空をあたため、その空気をより軽いものにしていく。
日差しの暖かさに、風の冷たさ。
それらがちょうどいい感じに入り混じり、俺に大いなる安らぎを与えてくる。
まるで水枕の上に身を横たえているかのような・・・
そんな、この上なく最高の空間が、そこにはあった。
天空遥か、雲ひとつない真っ青な空。
その幻想的で美しい光景を全身に受けながら、俺はついにウトウトと眠ってしまった。
あまりにも、心地よすぎる・・・・・。
あれから小一時間ほど空を飛んでいただろうか。
しばらくして、急に俺の体が上下に激しく揺さぶられた。
「うわっ、なんだ?! ・・とにかく、ここは早く脱出だ!」
俺はそう言うなり、素早く身を立て直し、この危険な空間を脱出しようと試みた。
空間はなおも俺の身体を引っ張り、下へ引きずり降ろそうとする。
だが、こんなところで空の旅を終わりにされるわけにはいかない!
俺は必死に抵抗し、空中で見えざる手を相手にふんばった。
そして・・・ ようやく振り切ることに成功した。
「ふぅ、なんとか助かったな・・・。」
どうやら乱気流のようだった。
後ろを振り返ると、そこにはわずかながら乱れた雲が浮かんでいた。
気流の変化によって生じたものだった。
まもなく、その下では雨が降ることだろう。
その一方で、この上空はいつまでも青い空が広がっていた。
・・が、よく見ると快晴の青空ではない。
確かに空は青く、まだ晴れ渡ってはいるが、
俺が今いるところのさらに高みに、うっすらとした・・・
たとえるなら鳥の羽根か、あるいは刷毛をひいたような・・・
そんな雲だった。
巻雲と呼ばれる雲で、その形からすじ雲とも言われている。
弱々しい外見だが、とても美しく、気品すら感じさせる。
そんなことから、絹雲とも言われているらしい。
やわらかそうだな・・・ できればこの手でさわってみたい・・・。
そうは思ったものの、なかなか体が思うように飛んでくれない。
すじ雲はここよりまだ高いところにあるうえ、風が強いために、
今の俺ではそこに到達することさえ及ばない。
これも自然の神秘・・ 神がなせる業だろうか・・・。
空は、心なしかほんのりと薄暗く、黄色味を帯びてくる。
雲は、それに呼応するかのようにほんのりと色づく。
それも高いところにあるためか、日が傾きかけてもなお陰影を見せず、
そのまま美しい黄金色に輝き続ける。
ゆらめき立ちのぼる炎のごとく、すじ雲はみるみる広がり、
折からの強い風に吹かれてその秀麗さを際立たせる。
そのさまは、あたかも鳥が大きな羽根を広げて今にも飛翔しようとしているかのようで、
金色に光輝くこともあいまって、その姿は伝説の不死鳥をも彷彿とさせるものとなった。
優しい光に包まれ、いつまでも、どこまでも・・・
遠く地平線の彼方に沈んでいく太陽を前に、
俺は、次なる空へと旅を続けていく・・・・・。
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