小説『遥かなる空への想い』
- 第6章 水のごとくに動き出す山雲 -
今は朝方。天気は不明。
標高の高い山々が連なる空の上を、俺は今、飛行している。
夜が明け、うすら明るいペール色の空が顔をのぞかせる。
上空は、日の光を通しこそすれ、少し厚めの雲の層に覆われ、
あながち晴れているとはいいがたい。
しかし曇っているとも言いきれない。
だが、眼下では様子が違った。
どこからか集まった雲たちが、なかなか興味深い動きを見せてくれた。
高い山々の上にたまっていた、大きな雲のかたまり・・・
それは、その雲の下にいる者にとっては
ただどんより曇っているようにしか見えないであろうものだが、
いざ上から見下ろしてみると、それは時とともに昇りゆく太陽の黄色い光に照らされ、
趣の深い姿を見せていた。
「雲海だ・・・。」
風は穏やかに吹き抜け、
雲海は、時間がたつにつれてその高度を上げていく。
そして、雲海はついに山の稜線を越え、今度は一転して山の下へと降りていく。
その様子は、あたかも連山がひとつの堰となって雲をせき止め、
雲が大きな滝のように山を滑り降りていくようだった。
滝雲とでも言うべきか・・・
空もまた水と同じように動きがあり、流れがあるのだろう。
山を滑り降りた雲は、やがて太陽の光を受けて徐々に消えていく。
これに伴って、山のいたるところから白い湯気がいよいよ湧き出し、
山全体を白く染めあげていく。
朝霧の晴れぬ高山の、なんとも幻想的な風景・・・
雲が生まれる瞬間である。
天気はしかし、さして良い方向に向かってはいなかった。
昼を過ぎるか過ぎないかといった頃から、
しだいに空全体を灰色の雲がすっぽりと覆い、視界さえろくに利かなくなった。
連山の姿は、もはやどこにもない。
というよりも、すでにその場所を通り過ぎていたのだ。
俺は、その雲を避けるべく、より高みを目指して空を飛んだ。
だが、どこまで高度を上げても、同じような暗い雲が広がっていた。
底なしの沼に入るがごとく、深みにはまったというのだろうか。
それとも・・・?
「くっ・・・、今のはいったい!?」
次の瞬間、俺は眼下から迫り来る
目に見えない大きな圧力にその身を乱された。
さらに同時に、その雲の中で突然小さな光が走り、体を刺激した。
ビリビリとしびれるような刺激・・・
よく見ると、これまで広がっていた層状の灰色の雲は、
いつの間にか全体がもくもくとした灰褐色の巨大な雲に変わっていた。
雲はさらに勢いを増し、やがて空間にうす紫色の光の筋とともに
大きな音をとどろかせるようになった。
ということは、これは・・・
「雷雲だ!!」
こんなものにやられては、ひとたまりもない!
かくして俺と雷雲との格闘劇が、奇しくもここに幕を開けたのであった。
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