小説『遥かなる空への想い』
- 第8章 山を取り巻くシャンプーハット -
今は昼。天気は晴れ。
空を飛び、めぐる旅は、いよいよ折り返し地点を迎えることになる。
俺は、一度地上に降り立ち、あたりを見回してみた。
目の前に広がる緑の草原と、背の低い木々がちらほら。
草原――いや、高原というべきか。
空気がとても澄み渡っている。
草原の向こうには、やや背の高い山がひとつそびえ立ち、
その合間からは、なぜかこの周囲の風景にはふさわしくない・・
しかしどこかで見たことがあるような、そんな風景が顔をのぞかせている。
ただ、その輪郭はおぼろげである。
こんな晴れた青空が遠くまで続いているというのに、なぜ・・?
一瞬あとになって、それは、ここが自分の夢の中であることに気づいた。
「なるほど、そういうことだったのか。どうりで変な感じだと思った・・。」
さて、草原に腰をおろし、しばらく羽根を休めていると、
なんと草原の向こうの山が、雲を面白い形にしてその身にまとっていた。
その形に俺は冒険心をくすぐられ、すぐさま山のほうへと飛んでいった。
山がまとっている雲――鉢巻雲とも呼ばれるそれは、
山の中腹から上を横に長く、たとえるならドーナツのように丸くかぶさっており、
山頂付近には雲はなかった。
その姿は、まるで山が腹巻か腰巻をしているかのように見え、
あるいは山そのものを人間の頭に見立てるなら、山がシャンプーハットを
すっぽりかぶっているようにも見えた。
「へぇ、こんな雲もあったんだ。変な形だな。」
うすら青い晴れた空のもと、俺は目の前にあるその雲を見て思わず本音を漏らしてしまった。
だが、どんなに変わった形でも、雲は雲である。
鉢巻雲は、わた雲のようにむくむくと盛り上がり、
その場にとどまっているようでありながら、意外と足早にその形を変えていく。
俺はさらに興味深くなり、その雲の中へと突っ込んでいくことにした。
「ほう、これは面白い・・」
案の定、雲の中ではやや強い上向きの風が吹いていた。
この山をのぼる強い風があって、おそらくはこの鉢巻雲ができたのだろう。
自然の動きを感じる瞬間である。
一説では、この雲が出ると近いうちに雨が降ると言われている。
俺は、しばらく雲の外に出て空全体を眺めてみた。
時はやがて夕方になり、山や草原、そしてすべてのものを淡いオレンジ色に染め上げる。
夕陽がまぶしい・・
結局、雨は一滴も降ることなく、
そしてシャンプーハットはいずこかへと姿を消してしまった。
「なんだ、所詮ことわざはことわざだったのか。
あるいは俺の天気予報が外れただけかもな・・。
ま、そういう日もあるか。」
大自然は、今日もまた静かな夜を迎え、穏やかな闇に包まれていく・・・。
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