小説『遥かなる空への想い』
- 第10章 ブロッケンのお化け -
今は昼間。天気はおおむね晴れ。
俺は今、会いたい者がいる。
そのことをふと思い立ち、高い山へと向かって空を飛んでいる。
あの山は、俺にとって思い出深い山なのだ。
そのときの思い出をプレゼントしてくれた「彼」に、もう一度だけでも会いたい・・
その衝動が、俺を山へと急がせた。
風は穏やかに、空はうっすらとベールをかけたかのように曇る。
空は明るく、遥か上空に輝く太陽のまわりには、
少し破れかかってはいるものの、光の環ができていた。
そんな太陽からの暖かい光を背中いっぱいに受け、
俺はただひたすら空を飛び続けている。
あれからどれくらい飛んでいただろうか・・・
いつしか空は地平線から黄色く染まり始め、太陽も西へと傾き始めていた。
俺は、からくも日があるうちに目的地である彼の山にたどり着いた。
そして腰を下ろし、「彼」が現れるのを待った。
「夢にまで出てくるほど、俺はこの山が好きだったんだろな・・。
でも、本当に彼が現れてくれればいいけど・・・」
期待が高まる一方、一抹の不安があった。
「彼」――俺が探し求めているそれは、もちろん人間ではなく、まして生き物ではない。
朝か夕方に、よく妙な光を発して現れるという。
しかも光を発した当人の姿を直接見ることはできない。
あくまでも光を通して、自分が近くにいるんだよということを訴えかけているだけだ。
そんな得体の知れない・・、しかし山を登りきった人々に大きな感動を与えるであろう彼は、
しかしながら現れる時間が短い。
このことがあるため、俺は時間とともに徐々に不安を感じるようになっているのだ。
果たして、彼には会えるのだろうか・・・
と、その時だった。
遠い山の稜線の向こうに、大きな人影が見えた。
喜びのあまり、俺は思わず立ち上がった。
すると、向こうに座っていた人影も、まったく同じタイミングで立ち上がった。
試しに再び座ってみると、同じく人影も座った。
「これだ!! 会いたかったぞ、ブロッケンよ!
久しぶり・・ 本当に久しぶりだな・・・!」
ブロッケン――それが、彼の正体だった。
彼は、太陽が低いときに低い角度から、要するにほぼ横から光が発せられている時、
その陽光を利用して、こちらの影を遠くへと映し出す。
まるで自然のスクリーンであるかのように、それを見た者の影が
自然の空間をバックに映し出されるのだ。
さらにこの時、映し出された影は、きれいな虹色の輪をまとう。
その姿は、巨大な影が映ることからブロッケンのお化けとよく言われるが、
見方を変えれば美しく、神々しくも見える。
古来より山には神様が住んでいると言われ、山が信仰の対象とされてきたのも、
案外ブロッケンがあったからこそなのかもしれない。
「御来光」などと言われるゆえんである。
しかし、時は無常である。
やがて夜が訪れ、ブロッケンは日没とともにその姿を消してしまった。
とはいえ、彼に再会できた喜びは大きかった。
俺は、その心の中で感謝の意をあらわした。
「思い出をありがとう、ブロッケン。またいつか会えるといいな・・・待ってるぞ!」
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